王の連嶺
大晦日の夜、往く年に思いをはせながら、静かに除夜の鐘を聴きつつ新年を迎え、正月は家族と穏やかに過ごす、という日本の伝統は、本当に良いものだと思う。家族と過ごすのはクリスマスで、新年は、大晦日の夜から、飲めや踊れのパーティでにぎやかに迎える、というこちらの伝統は、始めの数年はもの珍しくそれなりに楽しかったが、その後は、正月は家で静かに過ごすようにしていた。ところがこの数年、中国から安い打ち上げ花火セット輸入されるようになったせいか、大晦日の夜通しヒューヒューバンバンと、打ち上げ花火の音が鳴り響くようになり、静かに新年を迎えるのが一段と難しくなってきてしまった。そこで、今年は、大晦日から山に行き、静かに新年を迎え、出来れば初日の出も見る、という計画を立てた。




大晦日
前夜は寝苦しくてよく寝られなかった。ここ数日出てきた西風は朝になって収まってきたようだが、早朝だというのにすでに生暖かく、今日は暑くなりそうだ。今日の予定は、ウェリントンから西に向かい、リムタカ峠道路を越えて、ワイララパ平原を国道2号線沿いに北に向かい、マスタートン町の北、人気のホールズワース登山口(Holdsworth roadend)の東に位置する、ワインガワ川(Waingawa)左岸の通称、松並木登山口(Pines roadend)まで、2時間のドライブ。松並木登山口から、始めの4-50分は牧場の農道等を、そのあとは、ワインガワ川左岸沿いの、上下の激しい登山道を、中流の司教帽が原(Mitre Flats)に向かい。司教帽が原からは右岸に流れ込む南司教帽谷(South Mitre Stream)を、少しさかのぼり、中の王尾根(Mid King Spur)を出来るだけ登ったところでキャンプする、というものだ。 

ウェリントンは曇りだったが、峠を越えてワイララパ平原に出ると、晴れて暑くなってきた。朝の8時半だというのに冷房をかけながらドライブ。登山口から歩き始めて10分ほどのところから、タラルア山地の最高峰、司教帽(The Mitre 上写真)がよく見える。その南の通称三王(The Three Kings)は、ちょっと雲に隠れている。今回の山行の目的は、あの三王の真ん中にある、中の王(Middle King)に登ることだ。だが一泊小屋泊まりのつもりだったクリスマス山行とは違い、今回は始めからテント持参で二泊三日の予定だから、テント、サーマレストなどの装備や、3日分の食料などで14キロ以上になった13年物のmacpacが肩に食い込む。暑さと重荷でかなりへこたれながら、ワインガワ川にかかる橋を渡り、3時間半かかってようやく司教帽が原に到着。もう1時近く、ますます暑くなってくるようだ。小屋で休み、昼食、水分補給をするが、かなり疲れているのが分る。小屋常備の行動予定・記録簿に「中の王尾根でキャンプの予定、明日は中の王に登り、そこから北、または南に向かう」と書き込む。

昼食後、もう2時近いが出発。先ほど渡った橋の袂のちょっと下流で、南司教帽谷がワインガワ川に流れ込んでいる、そのちょっと先に、南司教帽谷をわたるつり橋があるのを渡る。この先は正規の登山道を離れ、南司教帽谷右岸を上流に向かうのだが、斜面がかなり急で踏みあとがはっきりしないので、ちょっとうろうろする。正規の登山道は、尾根筋に沿ってジグザク登っていくが、少しうえで地図上傾斜がいくらか緩くなるようなので、そこからの下降を試みる。足元に気をつけながらゆっくり下っていくと、平らな河岸段丘が見えてきた。行ってみると確かに踏みあとがある。昔の登山道の標識を過ぎると、踏みあとがちょっと不明瞭になり、速度が落ちる。中の王尾根の上り口である、南司教帽谷と禿頭沢(Baldy Creek)の出合いまで、地図上では水平距離500mちょっとだが、実に1時間近くかかってしまった。相変わらず暑いので、涼しい沢沿いでゆっくり休んで水分補給をする。ここで持参のプラティパスに2Lの水を詰め、ザックに入れると、ただでさえ重かったのが、さらにズッシリ。2kgではなく、3-4kg重くなった気分だ。

沢から尾根先端の河岸段丘に登るところが傾斜が急できつい。二段目の段丘は、傾斜は少し緩いが長い登り。午前中暑い中の行動で体力を消耗したあと、いっそう重くなった荷、疲れた脚で道がないところを登っていくのが、精神的にもきつくなってきた。夏の、日が長いときなので時間的にはまだまだ行動できるのだが、15分も登ったら、何だかもう嫌になってきてしまった。テント泊装備一式を背負っているので、どこででも泊まれるし、大きな木の根もとの地面が平らになったところが目に付いたとき、ついにザックを投げるように下ろしてしまった。今日はここまで。今晩ゆっくり休んで、どうするかは明日考えよう。決心がつくと行動は早い。すばやくテントを張り、荷解きをして、リラックス。早めの夕食に就寝。2005年の大晦日は、こうして静かにぐうたらに暮れていったのだった。


元旦
朝7時過ぎ起床。ちょうど朝日が谷間に差し込んできた。本当は昨日のうちに尾根の森林限界近くまで登って、そこから初日の出を見たかったのだが。食料と水が昨日の夕食の調理でかなり減ったので、今日は荷物は軽い。これなら何とか登れそうだ。予定通り、中の王尾根を登ることにする。8時45分出発。広い段丘の上でははっきりしなかった踏みあとも、尾根が狭まってくるにつれたどり易くなってくる。無理をせずにゆっくりと一定のペースで登っていき、3時間弱で森林限界近くの開けたところに出た。高度計は1165m。北側にはタラルア山地最高峰の司教帽、西には三王峰のうちの北の王(North King)南の王(South King)が聳え立っている雄大な風景が広がるが、目的の中の王は見えない。

45分後、背が低く密生しているぶなの間を強引に抜け、何とか森林限界を超えて尾根の段の上に出る。もう12時半過ぎたので、ここでちょっと休んで、クラッカーとサラミをつまむ。行く手の尾根は高山性潅木、皮革樹(leatherwood)と、背が高い株性の草、タソック(tussocks)が交じり合って密に生え、急な登り、緩やかな段、小さな鞍部が続いている。一歩脚を進めるにも、胸まで達するススキの株を小型にしたようなタソックや、皮のように硬くごわごわした葉の皮革樹の弾力性のある枝をかき分けつつなので、進行は非常に遅い。それでも登るにつれ、厄介な皮革樹はだんだん減ってくるし、タソックも株が小さくなってくるので、それを励みにがんばる。13時45分、中の王山頂到着。雲が低く垂れこめているものの、視界は良く、素晴らしいパノラマが広がる。


中の王山頂(1535m)から北を望む。右の独立峰が司教帽(The Mitre 1571m)、真ん中が北の王(North King 1535m)の巨体、その左肩遠方には、ランカスター(Lancaster 1504m)・トンプソン(Thompson 1448m)と、タラルア山地北部を開拓した冒険登山者に因んで名づけられた高峰が並ぶ。

南には、南の王(South King 1531m)を中心に、右奥にマクレガー(McGregor 1540m)、その左に直角峰(Angle Knob 1510m)。南の王左方遠方には、ホールズワース山(Mt Holdsworth 1470m)が見える。



山頂南直下に、小さな池があり、そこで休憩と水分補給。小さなぼうふらが泳いでいるちょっと茶色っぽい水を、濁らせないように少しずつコップですくい、バンダナでこしてから一応沸かすが、時間もガスも余裕がないので、小さな泡が出てきたところ(70度くらい?)で良しとして火を止め、そのお湯を飲む。(4日後の現在も胃腸に異常がないので、消毒はあれで十分だったのだろう。)残りは耐熱性のはずのプラティパスに入れておく。のんびりしていたら、北のほうから黒い雲が迫ってきて、ちょっと風も出てきた。この稜線上で悪天につかまったらとても厄介なことになるので、あわてて荷物をまとめる。

ここから一番確実に早く下山できるのは、南の王を越え、その先で東に分かれる稜線を禿頭(Baldy)に向かい、そこから、今はあまり使われていないバートン道(Barton track)を経て、出発点の司教帽が原に下るルートだ。稜線の両側が切れ落ちていて、ちょっと緊張するところもあるが、ルートははっきりしている。黒い雲はあれ以上近づいてくる様子もなく、雷の心配はなさそうなので、一歩ごとに少しずつ変わっていく景色をゆっくり楽しみながら、午後3時に南の王に到着。

ここから数分下ったところで、稜線が二分し、そこで左手の稜線上の薄い踏み跡をたどっていく。左側には今日登ってきた中の王尾根のルートがはっきり見え、右側には、アチファカツ谷源流部を囲む峰々が広がる。時々止まっては写真を撮りながらなので、行程はなかなかはかどらないが、夏の日は長いので、まだ余裕がある。16時半、禿頭到着。景色の良いところで最後の休憩と写真。16時50分にバートン道に向け下山開始。昔の登山道で、今はほとんど使われず手入れもされていないと聞いていたが、要所要所にマーカーがあり、足元もしっかりしている。2-3箇所、倒木などでちょっとルートが怪しくなるところはあったが、クリスマス山行で苦労したホールズワース高稜(Holdsworht High Ridge)に比べたら、全く問題はない。

19時すぎに、現在の登山道と合流したところで休憩して最後の水を飲みほし、19時半には、南の王谷にかかる吊り橋をわたった。小屋についてみると、釣りの準備をしている人がいる。マスがいるのだそうだ。行動予定・記録簿に今日の行動を書き込み、明日は真っ直ぐ下山の予定、と書く。せっかくテントがあるし、小屋ではゆっくり出来ないので、ちょっと先の林内の良く使われるテント場に向かう。まず川でたっぷり水分補給してから、テントを張る。夕食は、缶詰のツナカレー...と書くととてもまずそうに聞こえるが、本格的インド風ロガンジョシュ(Rogan josh)ソースを使ってあり、なかなか結構。食事が出来る頃には、さすがに暗くなって来た。後片付けを済ませ、支度をしてシュラフに入るともう10時近い。今日は長かったが、充実した一日だった。一年の計は元旦にありというが、今年は充実した山がたっぷり出来ると良いな。

一月二日
早朝から強い風が吹き出し、とても落ち着いて朝食の支度などしていられないのでさっさと荷物をまとめ、クラッカーをかじって歩き出す。下山路をの半分ほど行ったところで、ちょっと風が弱くなってきたので、風になったところでお湯を沸かし、その日初めての紅茶を飲む。(テント場では、風が強すぎてお湯も沸かせなかった。)昨夜の釣り人グループもさっさと下山するようだ。紅茶で少し元気が出て、また歩き出したところで、雨が降ってきた。その雨はすぐにやんだが、そのあとまた風が出てきて、牧場を横切るころには、強風どころか暴風に近い強{73;になった。タラルア36;65;地は風が強いところで、稜線上での強風は経験があるが、平地でこれだけの風を受けるのは初めてだ。駐車場まであと十分ちょっとの農道上、往きに山の写真を撮ったあたりで、ついに風にすっ転がされてしまった。平地でこの暴風、昨日のんびりと歩いた稜線上は、どうなっているかと想像するだけで恐ろしい。昨日あそこを歩けたのは本当に運が良かったのだ。今年はGood luck は山にある、という徴かもしれない。よし、どんどん山に行くぞ。




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by mimi_s_mum | 2006-01-05 08:14 | 山行報告




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