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NZの山岳無線サービス
登山中に予期せぬ事態になったとき、家族、警察などに確実に連絡できるシステムが必要だ。昔、父の大学山岳部OBの皆さんに山に連れて行ってもらっていた頃、山岳部はCBトランシーバーを使って連絡を取り合っていた。(確かCBで、短波ではなかったと思うが100%確実ではない) こちらに来てからは、日本の登山事情に全く疎くなっているが、たまに手に入る山の雑誌や、インターネットからの情報を見ると、今では緊急時に携帯電話を使うのが一般的になっているようだ。にほんブログ村 アウトドアブログへ





ニュージーランドでも、電波状況のよいところでは、携帯電話を使って登山パーティーが下の家族と連絡を取り合うということはある。とは言ったが、携帯電話の電波到達範囲は通常、居住地域を対象にしているので、少し山深いと、携帯電話がほとんど使い物にならない事は、日本でもNZでも同じだと思う。ベテランPさんが、南島分水嶺の主稜線上で、脚をいためて動けなくなったときも、同行の健脚二人が丸一日がかりで、やっと携帯電話の使えるところにたどり着いた、ということは、以前も書いたとおりだ。 

NZの山岳無線サービス_e0056912_10542894.jpgそこで、NZでは、長期の山行をするとき、登山パーティーは、山岳無線(Mountain Radio) セットを携帯することが出来る。これは、高さ20cm、底面8cm四方ほどの本体と、被服銅線で出来た、延長40mのアンテナ、予備の電池が入った、大きな弁当箱ほどの大きさのソフトケースで、総重量2キロ弱である。

このセットを、地元の山岳無線サービス(Mountain Radio Service)から、1日5ドルで借り出す。それぞれのセットに、固有の通し番号がついている。山行中は毎夕、定時連絡を行う。パーティーは、目的地に着いたら、全長40mのアンテナを、出来るだけ高く、真っ直ぐ張りわたし、中心から出ている電線に本体をつなぎ、定時連絡の準備をしておく。(最近の記事にも書いたが、これがなかなかの大仕事だ)

連絡時間が来ると、下界のベース無線局が、まず山岳天気予報を読み上げ、次に山に入っているそれぞれのセットの番号を順番に呼ぶ。自分のセット番号が呼ばれたら、応答し、パーティーに異常はないか、翌日の行動予定は何かを報告する。このとき、天気予報が聞き取れなかったら、訊きなおしても良いし、下界のニュース(ラグビーの結果など)を尋ねる人もいる。もし、下山日程、下山先などが変わるときは、家族への連絡を頼むことも出来る。定時連絡が終わったら、本体をはずし、アンテナを回収して巻き取る。

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もともと南島クライストチャーチが本拠のカンタベリー山岳会(Canterbury Mountaineering Club: CMC)会員の有志を中心に開発されたシステムだ。発端は、1960年代前半、CMC会員が山岳救助活動のため、15キロもある陸軍の無線設備を稜線上に担ぎ上げたが、ロス・アンジェルス空港には通じるのに、下の救助隊本部とは全く連絡と取れなかった、という逸話にあるようだ。「もっとマシなものはないのか」ということで、地元有志が独自に開発したモデルを使い、1969年に南島で、1974年には北島(ベース・ウェリントン)でサービスが始まった。

カンタベリーのベース無線局が、日中は常時モニターしているので、緊急事態があったら、いつでもメイデイを発することが出来る。局のボランティアが、警察、家族に連絡を取って、山岳救助活動を開始させてくれる。携帯電話が通じない、広大な山岳地帯の中心部や谷あいでも交信可能だ。Pさんが脚を痛めたときも、これがあったら、すぐに救助できたのだが。

定時連絡、貸し出しパーティーの行動予定の把握というシステムから、パーティー全体に万が一のことがあり、緊急連絡も取れない場合でも、捜索活動の範囲を絞ることが出来る。例えば、10日間の長期山行の6日目に事故があり、無線機も壊れてしまったという場合でも、6日目夕の定時連絡が不能だった時点で、警察に連絡が行き、7日目には、捜索救助隊が、5日目のキャンプ地から6日目の目的地に範囲を絞っての捜索が開始されるだろう。山岳無線 なしだと、捜索開始は早くても12日目、捜索対象地域も比べ物にならないほど広大になってしまう

このような利点から、もっと使われるべきなのだが、重く、かさばるし、設置回収に時間と手間がかかるので、敬遠する人が少なくないことも確かだ。(私も心を入れ替えねば...)南島では、最近小型軽量モデルが開発・導入されつつあるので、その動きが、早く北島にも到来することを願っている。


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by mimi_s_mum | 2006-06-13 11:10 | 中つ国山民俗学




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